うみのおと

まちのこと ひとのこと うみのこと

高擶

みなさんはこの字を見たことはあるでしょうか。音読みで「セン」、訓読みで「ただ-す」と読みます。

この字の用例は多くなく、山形県天童市高擶(たかだま)という地名が最も著名なのかもしれません。ちなみに、高擶のほかにの字を用いる地名はありません。

 

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山形県天童市高擶(たかだま)地理院地図より。

 

どうして、こんな希少漢字が地名として使われるようになったのでしょうか?そして、の字をだまと読ませるようになったのはなぜでしょうか?

今回は希少地名漢字のお話です。

 

さっそく調べてみましょう。

天童市立高擶小学校のご案内 | 学校案内 | 高擶小学校によれば、楡(ニレ)北日本での呼び名である「タモ」に由来するとあります。

 

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高擶小学校


なるほど、たかたもたかたま、そしてたかだまに変化したという説明には説得力があります。

しかし、の字が変化してになるという説明には少し無理がありますし、そもそもの字に「たも」という読みはありません。

どうやら、以上の説明には飛躍がありそうです。

 

他のページも見てみましょう。

高擶小学校の学区について | 学校案内 | 高擶小学校でも高擶の由来について説明されています。

高擶は、立谷川扇状地の扇端にあたり、湧水が豊富でした。そして、水が豊かな当地を好んでハルニレが自生しました。この地に育つハルニレは、当地の人からタモと呼ばれます。ここまでは以上のページでも説明された通りです。

 

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スーパー地形アプリより。地図左上の高擶地域は立谷川扇状地の扇端に所在している。

 

タモは大きく育ちます。すると、タモの大木が育つ地に、高櫤(たかたも)という地名がつけられます。たかだまという読みはこのたかたもが変化したものと考えてよいのではないでしょうか。

ここでの字が登場しました。この字は、音読みは「セン」、訓読みは「たも」で、ハルニレを指す漢字です。「たも」は北日本でのハルニレの呼び名ですので、この字もいわゆる方言漢字であるといえます。

しかし、このの字はの字と字形が似ています。高櫤でも混同が進み、やがて高擶に転化したのではないのでしょうか。

 

ところで、「ただす」の意味しかもたないの字でさえ地名としての用例がありました。「タモ」を指すの字にも地名としての用法があっても不思議ではありません。探してみましょう。

 

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スーパー地形アプリより。地図中央の櫤山地域もまた大旦川の扇状地に所在している。

 

ありました!

山形県村山市櫤山(たもやま)です。そして、この櫤山高擶と同じ山形県村山地域にあります。

どうやら櫤山擶山へ転化しなかったため、同じ地域にの字が併存することになります。本当に紛らわしい話です。

 

どうして、高櫤高擶に転化した一方で、櫤山擶山へ転化しなかったのでしょう。

ただでさえ憶測の多い話でしたが、ここからさらに憶測を増します。

 

高擶のおこりは高櫤城の築城まで遡ります。城下町として人や物を集積するなかで、の字が、より用例の多いの字に変化したのではないでしょうか。

一方の櫤山奥羽山脈を控えた山裾の集落です。このため、人波に揉まれることなくの字を守りぬけたのではないでしょうか。

 

高擶はなおも人波に揉まれつづけます。

昭和27(1952)年、当地を通過する奥羽本線国鉄高擶駅を設けました。

以下は、奥羽本線への停車場設置を公示する官報です。官報. 1952年03月05日 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

なんと、高擶駅を設置した国鉄でさえもの字を混同して高櫤表記で公示してしまっています。

しかし、国鉄が犯した間違いはこれだけではありません。

 

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高擶(たかたま)駅。観光案内板にはたかだまのルビが振られている。

 

なんと、国鉄たかだまたかたま駅を設置してしまったのです!

国鉄は停車場名に厳密でなく、まいはらまいばら駅を設置したり、かかみがはらかがみがはら駅を設置したりと、たかたま駅のような例は枚挙に暇がないのです。 

 

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右折するとたかだま

 

しかし、たかたまの読みはまいばらかがみがはらのようには受け入れられなかったようで、たかだま駅と呼ばれているようです。

 

気付けば高擶という地名から話を広げすぎました。そして、ここでの話の多くが憶測なので、読みづらさを感じたかもしれません。身も蓋もない話をするならば、多くの地名はその由来を遡ることが困難です。

多くの地名はその範囲を拡大/縮小させ、書き/読みを転換させます。このため、掴み所が少なく、だからこそその由来を考えるのが魅力的になるのでしょう。

 

参考